衛星データの活用事例や課題、宇宙産業における今後の展望を紹介
今回のイベントでは、損害保険ジャパン株式会社(以降、損保ジャパン)の宇宙事業領域の協業先である株式会社Synspective(以降、Synspective)が開発・運用している“SAR衛星データ”の活用事例や、SOMPOリスクマネジメントの防災・減災の取組みなどをご紹介。ゲストとして、SynspectiveでSAR 衛星データに関わる事業開発やプロジェクトマネジメント業務を担当している片桐氏による講演や、損保ジャパンが携わっている宇宙領域の事例紹介などを行いました。本レポートでは、イベントの一部をご紹介します。
当イベントの登壇者
Synspective ビジネス部
片桐 佑介 氏
SOMPOリスクマネジメント サービス開発部
山本 匡 氏
SOMPOリスクマネジメント サービス開発部
犬飼 篤 氏
損保ジャパン 航空宇宙旅行産業部
川田 烈 氏
イベントレポート
2025年1月22日、東京・日本橋にて損害保険ジャパン株式会社主催によるセミナーが開催。会場には、損保ジャパンと協業している企業様を含めた宇宙産業に関心を持つ多数の方々にお集まりいただきました。
イベントは損保ジャパン航空宇宙保険部長・山中氏による簡単なご挨拶から開幕。損保ジャパンの協業先である株式会社Synspectiveの片桐氏による小型SAR衛星の活用事例紹介を皮切りに、和やかな雰囲気でスタートしました。
最初にご登壇いただいたのは、衛星データ解析によるソリューション提供や、小型SAR衛星の運用などを行うSynspectiveの片桐氏。まずは同社の事業内容について「小型SAR衛星"StriX”の開発・製造に留まらず、取得したデータの分析やソリューションの提供まで一貫して行っていることが強みです。今後とも、各クライアントに対して意味のあるソリューションを提供していきます」と語りました。
実際に、本セミナーではSynspectiveによる小型SAR衛星を活用した事例をいくつかピックアップ。その中でも特に印象的だったのは、2024年1月1日に発生した能登半島地震の事例です。
まだ記憶に新しい同地震災害で、Synspectiveは小型SAR衛星で取得したデータおよび解析結果をホームページ上に無償で公開。実際に取得した画像などをモニターに投影し、被災地の被害状況の分析に貢献した事例などが紹介されました。
能登半島地震にて小型SAR衛星のデータをうまく活用できた一方で、片桐氏は「“観測頻度の向上”と“より迅速なデータ提供”が必要だと考えています」と今後の課題を提示しました。
これまでSynspectiveでは、6機の小型SAR衛星打上げを実施しています。しかし、いつ災害が起きてもタイムリーに対応できるよう“観測頻度の向上”をミッションに掲げ、2020年代後半までに計30基の打ち上げ完了を目指していると語ります。
また、より迅速なデータ提供を目指して、2024年の間に災害時のフローを構築したと発表。能登半島地震発生時は年末年始期間中ということもあり迅速な対応が難しかったそうですが、経験を活かして今後に向けたフローを構築できたと昨年の成果を公開しました。
今後の発展について、Synspectiveは現状国の防災研究機関と連携しているものの、外部組織との連携も必要だと感じていると語る片桐氏。その一環として、2022年から損保ジャパンと協業を開始した旨を説明しました。
「損保ジャパン様とは、主に衛星データを活用した新たなソリューション構築や、災害時における衛星データの活用方法の検討などに取り組んでいます」と紹介した上で、今後の意気込みも表明。外部組織との連携を進め、事業をさらに発展していきたいと結びました。
続いて登壇したのは、SOMPOリスクマネジメント サービス開発部の山本氏です。サービス開発部のエアモビリティグループにてドローンや衛星データの活用を進めている同氏は、まず損保ジャパンとSOMPOリスクマネジメントが取り組んでいる衛星データの活用事例を紹介しました。
「現在損保ジャパンとSOMPOリスクマネジメントでは、災害発生時の浸水地域や現場の状況を把握するため、衛星データを災害対応に利用するとともに、災害対策への活用を探っています」と話しました。
ドローンの活用も並行して取り組んでいる山本氏曰く、人工衛星の強みは“広域をスピーディーに撮影出来ること”だと言います。
また、確認の難しい山間部や被災地域の状況を迅速に把握するだけでなく、急峻な斜面や地盤の変位を把握することで、今後起こりうる災害の予兆をとらえて事前対策にも活用できる可能性があると未来の展望を語りました。
ただし、人工衛星で取得したデータを活かすには、まだまだ課題が残っていると言います。
「電子地図の情報は災害予測や災害後のお客様をサポートする際に役立ちますが、現状は十分に活用しきれていません」と語る山本氏が事例として挙げたのは、浸水被害による保険支払いについてです。
浸水被害が生じた際は、浸水状況が床上か床下かによって保険適用や支払の内容が異なりますが、現状衛星データでは浸水したエリアの深水深は把握できるものの、個々のお客様物件の床面高までは把握できないなどの難しさがあると問題を提起しました。
解決しなければならない課題はあるものの、衛星データの活用例として「浸水状況の確認の他にも、建物の傾きや地盤沈下などの異常検知などにも衛星データを活用できると期待しています」と話す山本氏。さらに、衛星データだけでなく、ドローンやSNS、IOT機器などとも連携させながら、災害予防や災害対応の迅速化に繋げていきたいと今後の展望を語りました。
最後には「ぜひこれからも皆様と協力しながら、衛星データなどを活用したリモートセンシングに取り組んでいきたいです」と結び、イベント参加者へ協力を呼びかけました。
約10分の小休憩を終えて、第三部が開幕。続いて登壇したのは、山本氏と同じSOMPOリスクマネジメント サービス開発部のリスクプラットフォームグループに所属している犬飼氏です。
同氏は「気候変動リスクが高まっている近年、リスクマネジメントは欠かせません」と語った上で、損保ジャパン・SOMPOリスクマネジメント・ウェザーニューズの3社で世界中の気象情報やリスクに関する情報を収集できるプラットフォーム“SORAレジリエンス”を構築したことを発表。
世界的に支社や支店を展開している架空のメーカーを想定して、実際の画面を投影しながら”SORAレジリエンス”の使い方を解説しました。
現代ではインターネットで様々な情報を収集できる反面、必要な情報のみをピックアップするのは困難だと語る犬飼氏。しかし、“SORAレジリエンス”を活用すれば、展開している世界各地の支社や支店がある場所気象情報やリスクに関する情報をマップ上で確認できると、同システムの有用性を示しました。
SORAレジリエンスは情報を迅速に入手できるという点がわかりやすいよう、犬飼氏は実際の活用事例も解説。本イベントが開催される前日に発生した台湾の地震の記録が、発生してわずか15分後にはSORAレジリエンスに反映されていたことを紹介しました。
「SORAレジリエンス上ではアメリカの地質学研究所が発表した地震による影響などを確認できるため、自分たちの支社や支店に影響があったかどうかをチェックできます」と、実際の活用方法を語る犬飼氏。
また、SORAレジリエンスはマップ上で各地の情報を可視化することで必要な情報だけを正しく理解できる仕様にしているだけでなく、2024年から新機能も搭載したと発表しました。情報の遅れを防げるよう、適切な情報を迅速に届けられる新機能“グローバルアラート”を搭載したといいます。
「情報が多すぎると、災害発生地近辺の支社や支店を営業するかどうかなどの判断が難しくなってしまいます。そのため、私たちは信頼性の高い情報だけを厳選して継続的に提供しています」と、情報の精査にも力を入れている旨を語りました。
さらに、犬飼氏は今後の情報社会についても言及しました。SNSの普及などにより、情報を集めるだけでなく精査することが重要となった近年の傾向を踏まえ、「衛星技術の発達も進んでいるため、情報量は増えていく一方だと思います」と犬飼氏は語ります。
そんな中で、必要となるのはBCPやリスクマネジメントにおいて意思決定を行う際に、情報と状況を俯瞰してみていくことだと言います。「その際に、デジタルツールをしっかり使っていただくことが重要なのではないかと思います」と、リスクマネジメント活動においてデジタルツールを活用する必要性を語りました。
最後に登壇したのは、損保ジャパンの航空宇宙保険部に所属している川田氏です。
同氏は、最初に損保ジャパンでは保険事業を主軸に、宇宙に関する取り組みにも着手している旨を紹介。様々な事業者と資本提携を行い、既存の宇宙保険の提供に加え衛星データを活用したソリューション構築などに取り組んでいると、実際の取り組み事例を紹介しながら解説しました。
また、2023年4月、新たに宇宙専門部署を設立したことも発表しています。「新部署では衛星エンジニア出身者も参画したため、技術的な側面も含めて皆様にご提案・ご支援をさせていただいております」と語りました。
続いて川田氏は、宇宙産業の発展に伴う損保ジャパンの取り組みについても言及します。
川田氏曰く、近年ではポストISSや月面探査等の宇宙産業の発展に伴い、リスクも多様化しているとのこと。「ISSを使った事業や、宇宙旅行は手の届くところまで来ているビジネスです」と語り、今後は宇宙保険も拡張していく必要があると今後の展望を示しました。
今まではGEOの通信衛星が保険業界の中ではベーシックな対象でしたが、今後は宇宙保険もフレキシブルに提供していく必要があると語る川田氏。「例えば、月面探査や宇宙旅行に関しては様々な企業様と連携して“どこに損害が発生するのか”、“どこに保険をかけるべきか”を考慮しながら情報収集・研究しています」と、未来に向けた取り組みを紹介しました。
「損保ジャパンではイベント冒頭でご登壇いただいたSynspective様を始め、様々な事業者様と協業しています。先程山本氏から紹介していただいたように、Synspective様とは衛星データを活用した水災被害区域の特定などに取り組んでいます」。
そう語る川田氏は、水災があった際、迅速に契約者様へ保険金をお支払いできるように本取組みをさらに加速させていくと具体的な意思を表明。しかし、衛星データの活用に関する取り組みを進めるには、各事業者の協力が必要であると語りました。
講演の最後は「損保ジャパンでは宇宙保険を展開していますが、保険の枠組みを超えたリスクソリューションの構築にも取り組んでいます。今後は既存の宇宙保険では提供できていないニューリスクにも挑戦していき、様々な企業さんと社会課題解決に取り組んでいく所存です。ぜひ、このイベントに参加されている皆様を含め、あらゆる業態と連携して社会課題解決や宇宙ビジネスの拡大に貢献していきたいと考えています」と結び、盛大な拍手を受けてイベントは終了しました。
セミナー終了後は、アンケート調査とネットワーキングを実施。集計したアンケートでは、ご来場いただいた方々から「とても勉強になりました」「実際の衛星データの活用状況をお伺いできて、非常に有用と感じた」「継続的に宇宙ビジネスに関するイベントを開催してもらいたい」といった意見が寄せられました。