衛星データ解析によるソリューション提供や、小型SAR衛星の運用などを行う株式会社Synspective (以降、Synspective)。同社は2022年に損害保険ジャパン株式会社(以降、損保ジャパン)と業務提携を結び、宇宙産業プロジェクトの展開を始めた。そんな両社が思い描く宇宙ビジネスの可能性、今後の展望とは?今回はSynspectiveのCEO補佐である淺田氏と、損保ジャパンの航空宇宙保険部で宇宙産業開発課課長を務める園田氏で対談を実施。両社が協業することになった経緯や課題点、両社が目指す未来像について語っていただいた。
株式会社Synspective
CEO補佐
淺田 正一郎 氏
損害保険ジャパン株式会社
航空宇宙保険部 宇宙産業開発課 課長
園田 浩一 氏
※所属はインタビュー当時のものです
当社では、小型SAR衛星の開発・製造・打ち上げ・運用を行い、観測データを販売するとともにデータ解析によるソリューションの提供を行っています。Synspectiveの小型SAR衛星は光学観測衛星と異なり、雨や曇りの日、夜でも観測が可能であり、どんな状況でも使用できるため、災害時などにも役立ちます。実際に2024年1月に発生した能登半島地震でも当社の衛星が活躍しました。
はい。衛星の開発から打ち上げ、データの解析までワンセットで依頼できるのがSynspectiveの大きな特徴だと自負しております。それぞれセクションが分かれており、地盤に詳しいスタッフや画像処理に卓越しているスタッフなど、様々なプロフェッショナルが在籍しているのも特徴的です。
日本では衛星の製造や打ち上げを行っている企業は近年増えていますが、全て一括で任せられる企業は珍しい存在。Synspectiveならではの特色だと思います。
そうですね。当社従業員の1/3はデータ解析チームのメンバーで、その多くがヨーロッパ圏出身のスタッフです。やはり宇宙ビジネスは世界的に見てもヨーロッパ圏が盛んですし、データ解析技術においても先進的なので。
いまのところは安全保障関係の分野で活躍することが多いですが、今後は様々なジャンルのビジネスに結びつけられると考えております。例えば、スーパーの駐車場に停まっている車を撮影して売り上げと結びつければ、その日の売り上げを予測できるようにもなります。つまり、衛星で取得したデータの使い方は汎用性が高く無限大なんです!今後は活用法を見出すことも重要なポイントになるかと思いますね。
やはり打ち上げている衛星の数が少ないことでしょうか。当社が現在宇宙に打ち上げている衛星は3機。現在の台数では瞬時に必要な情報を提供できる体制が整っていないため、撮影頻度・更新率を上げるためにたくさん小型衛星を打ち上げる必要があると考えております。
2030年までに衛星を30機打ち上げることが目標です。衛星から適宜得られるデータにより、世界中の情報が把握できるような、“リアルタイムGoogle Earth”のような存在を創り上げられたらと考えております。
Synspectiveの最初の衛星を打上げるに当たって、打上げ保険を受けて頂く宇宙保険のパートナーを探していましたが、兼ねてよりご縁のあった損保ジャパンとタッグを組むことになりました。他にもお付き合いのある損害保険会社はいたのですが、パートナーとして協業できるかという点で検討し、その中でも魅力を感じた損保ジャパンとお取引する運びとなりました。
淺田さんから“当社ではこういうデータを持っているが、何か協業できないか”というご連絡をいただいたとき、実は我々はまだ衛星について知見が少ない状態でした。そのため、まずは淺田さんのもとへ伺って、宇宙や衛星について詳しく教えていただいたんです。
業界について知ろうとする損保ジャパンの真摯な姿勢にも感銘を受けましたし、他の損害保険会社にも協業できるかどうか持ち掛けたのですが、その中でもっとも期待できる回答をしていただいたのが損保ジャパンでした。そのため、一緒にビジネスを展開したいなと感じたんです。
ありがとうございます。現在は当社が所有している様々な保険に関わるビッグデータと、Synspectiveが所有している衛星で取得したデータを組み合わせて新たなプロジェクトができればと模索中です。
淺田さんは宇宙業界での経験が長く、保険に関する理解も深いため大きなズレもなくうまく連携できていると感じております。
前職でロケットの打ち上げ事業を行っていたため、保険会社から査定される立場だったんです。そのため、保険料率の設定などについて理解を深める機会がありました。
宇宙にも保険にも詳しい淺田さんとの打ち合わせでズレがないときや、評価してもらえたときはとてもうれしいし、自信に繋がっております。打ち合わせの後、同行した営業社員と一緒に声をあげて喜んだこともありました(笑)
(笑)
やはり難しいのは、実績のない不確実性のある領域に対する評価でしょうか。すでに打ち上げ実績があれば私の経験や知見をもとにレートをご提示できますが、実績がないとそうはいかない。例えば新しいロケットが開発された際、スペックなどを見れば従来の機種と比べて進化しているとわかっても、国内ではまだ実績のないものは厳しい評価にならざるを得ません。
実績がない場合は調査が必要となります。例えば、宇宙ビジネスの先進国であるヨーロッパまで状況確認へ向かうことも珍しくありません。実際にロンドンへ出張し、新しいロケットについて調べたこともありました。常にアンテナを張って情報収集は行っていますが、やはり海外の方が宇宙ビジネスは活性化しているので実際に現地まで赴くことも多いです。
まずは安定して同じ品質の製品を作り出すことを目標にしています。開発する技術と同じ品質のものを作り続ける技術は全くの別物です。2030年に小型衛星を30機打ち上げることを考えると、同じ品質の製品を作り出す技術をつけ、よりスピード感を持って対応できたらと考えております。これは当社だけでなく、宇宙スタートアップ全体における課題だと認識しております。
はい。例えば当社ではいまのところ1年に1回以上衛星を打ち上げていますが、10年以上新しい衛星を打ち上げていない研究機関もあります。今後より発展していくためには、トライアンドエラーで技術をどんどん反映していく必要があります。そのため、柔軟かつスピーディーに連携することが業界に求められていると感じています。
損保ジャパンとしては、Synspectiveと協業していく中で共に事業として成長していけたらと思っております。また、2030年までに30機を打ち上げるとなると、今後は取り組み方法も検討の余地があると考えています。
例えば、いまはロケットを打ち上げる際に1機ずつ契約を結んでいますが、将来的には年間でまとめて契約できるようになると考えております。もちろん、これから詰めていかなければならないことはありますが、宇宙の領域での実践がより活発になれば可能になると目論んでいます。
これまでは1年間に何機も打ち上げる企業はありませんでしたが、2030年に30機打ち上げという目標を達成するためには方法を工夫していかなければならない。そうやって実績を積み、データを集めていくことが大切だと思います。
そうですね。自動車保険や火災保険の保険などと比べると、やはり宇宙保険はまだまだ件数が少ないため、大数の法則がなりたちません。しかし、Synspective様がリードすることで実績が蓄積されていけば業界も盛り上がりますし、相乗効果でレートなどを判断しやすくなると考えています。
そこに関しては、損保ジャパンとは互いに研ぎ澄ましていくことができる領域だと思っています。保険もただ商品を扱うだけでなく、保険のプロ視点で見たSynspective の改善点なども明確化していただけるとよりパートナーシップは強固になるかと。今回協業することによって、そういったシナジーを生み出せることを期待しています。
ありがとうございます!ぜひ二人三脚でタッグを組みながら、取り組みを進化させていければと思います。
宇宙業界全体を進化・発展させていくためには、よりスピード感を持って実績を積み上げていくことが大切だと語る両氏。
2030年に30機の小型衛星を打ち上げるという目標に向かって、今後両社はさらに活動を活発化させていくことだろう。
淺田氏が語るように、宇宙ビジネスの可能性は無限大。
業界全体が発展していけば、ビジネスの幅も広がり地上と同じようにマーケットとして確立していくはずだ。